現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴るヘルシーコラム「ひとこと養生記」
人間(のみならず、あらゆる生きもの)は酸素なしでは生きられない。外界(空気)から酸素を体内に取り入れ、体内でつくられた炭酸ガス(二酸化炭素)を体の外へ放出する。そのことによって生命を維持している。生きているというのは、息をしているということ。「息」すなわち「生き」なのだ。
ヒトは普通1分間に15〜20回、呼吸する。鼻や口から吸い込まれた空気は、のど(咽頭)から気管→気管支を経て、左右の肺の中に入り、さらに何度も枝分かれし、細くなった細気管支の先端にある肺胞に送り込まれる。
そして、その空気中の酸素と血液中の炭酸ガスを交換する働き(ガス交換)が、肺胞の壁をとおして行われる。
肺胞の1個、1個は直径0・1〜0・2?。数の子の粒よりも小さいが、両方の肺を合わせると約3億個にもなる。
肺に慢性の炎症が生じ、気管支が狭まり、肺胞が壊されていく病気が、いま世界中でふえている。「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」である。
年間300万人がCOPDで死亡していて、2030年までに世界3位の死因になるだろう、とWHO(世界保健機関)は推定している。
日本はどうか。厚生労働省調査によると、治療中の患者数は17万3000人だが、大規模疫学調査(40歳以上の男女対象)による推定患者数は530万人以上。9割以上の罹患者が治療はおろか診断も受けていないことになる。
症状は、息切れ、せき、たんなどから始まり、病気が進むと呼吸不全や右心不全(心臓の右心室の働きが低下し、肺へ十分な血液を送り出せなくなった状態)が起こる。
最大の原因は、喫煙。ニコチン、タール、一酸化炭素などを含むタバコの煙や微小粒子を吸い続けていると、気管支や肺胞に慢性的な炎症が起こり、気管支の粘膜が傷害され、肺胞の破壊が進行する。COPD=たばこ病といわれるゆえんである。
肺の病気でもう一つ見逃せないのは、がん、心臓病に次いで日本人の三大死因の一つに上昇した肺炎である。
肺炎で亡くなる人の95%は高齢者。で、「肺炎は老人の友である」といわれる。言った人は、近代医学の最も高名な内科医の一人、ウィリアム・オスラーだ。
彼は自著『医学の原理と実際』第1版(1986年刊行。標準的教科書として広く長く用いられた)に「肺炎は老人のエネミー(敵)である」と記述したが、7年後の第3版では「肺炎は老人に安らかな死をもたらすフレンド(友)である」と改めた。そしてオスカー自身、1919年12月、肺炎で逝った。70歳だった。
聖路加国際病院の日野原重明先生(2017年7月逝去)が、「私の医師として、教師として生きる道を示してくれた、心の師」と仰いだ、オスラーには多くの至言がある。よく知られている一つが、動脈硬化についての、「人は血管とともに老いる」である。
注意しなければいけないのは、高齢者、特に80歳以上の人は、肺炎になっても自覚症状が乏しいこと。
?熱は高くならない。?せきやたんもあまり出ない。?呼吸が苦しいとも言わない。?顔だけ赤い。?ぐったりしてしまう。?食べない─といった例が多い。
いきなり意識障害が起こることもある。そうなる前に早く気づいて受診しよう。
家族が見て、これはすぐ病院に行くべきだというシグナルは、呼吸の変化だ。
呼吸が浅く、速く、1分間に25回以上にもなる。じっとしても脈拍数が非常に多い。
そのとき、気づかないままだと、あっという間に重症化する。
特にCOPDや糖尿病、心臓病などの持病、脳卒中の後遺症のある人が風邪をひいて、2、3日前から具合が悪かったけれど、なんだかぐったりしてきた、37度を超える微熱がある──というような場合は即入院すべきだ。
お年寄りは体の水分が少ないので、少しの発熱でも脱水を起こしやすい。
風邪をひいて食事がのどを通らない時も、湯水だけは飲んでください。
ひとこと養生記
それ、ウソです。