現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
変形性膝関節症とは、肥満や正座など膝への負担がかかる生活を続けた人の軟骨や半月板の弾力性が損なわれ、軟骨同士がこすれてすり減る病気。(病院情報ファイル「変形性膝関節症」=『週刊文春』2011年9月29日号)
医療ジャーナリストの取材・構成による整形外科の専門医の解説である。
これ、一般論的にはまったく正しい。どこにもウソはない。筆者(丸山)もそのように認識していた。
だが、「正座」に関してはそうではないと、雑誌『壮快』の連載「名医に聞く」のために面接取材した、黒澤尚・東京逓信病院整形外科部長(当時。現順天堂大学医学部特任教授)に教えられた。
変形性膝関節症の原因の列挙のあと、Q&Aは下のように続いている。
─正座の習慣は関係ありませんか?
黒澤 それはよく問題にされることで、多くの先生が、変形性膝関節症は正座をしたからで、正座なんかしちゃいかん、とおっしゃるのですが、私は、それは<常識のウソ>だと思います。正座は、むしろよいことなんです。あるアメリカの専門医は、日本人に変形性膝関節症が少ないのは、正座といういい習慣のせいだ。だから軽症の変形性膝関節症の患者に対しては、1日に1回は必ず<ジャパニーズ・シッティング>をするように勧めていて、非常によい効果を上げている、と報告しています。
─なのに、なぜ、日本では正座がよくないと言われるのでしょう?
黒澤 変形性膝関節症になった人が、正座のように完全に膝を曲げるようなことをすれば、痛いにきまっています。その結果だけを見て(原因と取り違えて)正座はよくないと言っているのです。
反対に、なぜ正座がいいのかといえば、たいていの人が(外人のように正座の習慣のない人は特に)60歳ぐらいになると、膝が完全には伸びきらず、曲がりきらないようになってきます(「
ですから、私は、重症の人は別ですが、軽い変形性膝関節症の人には、また正座ができるようになる訓練をしなさいと勧めています。
痛い最中はなかなかできませんが、お風呂で体が温まると、痛みが少なくなり、曲げやすくもなります。お風呂でじゅうぶん温まったら、まず浴槽の中でしゃがみなさい。しゃがむことができたら、こんどは正座をしなさい。多少の痛みは我慢してやりなさい。やってもあとに引く心配はありません。
正座は、変形性膝関節症を防ぐにも、治すにも、膝関節の柔軟性を保つ、とてもよい方法なのです。ただし、うんと悪くなった人は、膝の可動域(動かせる範囲)が小さくなって、3分の2ぐらいまでしか曲がらなくなります。そういう人はもう正座はできませんが、それでもいいから、やはりお風呂の中で少しでも曲げるストレッチングをする。これがとても効果的なのです。
どうですか? 旧著『名医が治す』(マキノ出版=1997年刊)より当該記事の一部を引用したが、説得力があるでしょう。
この話を聞いてから、私も入浴中かならず数分間、正座するよう心がけてきた。そのおかげか、このトシ(79歳)になっても、膝の痛みを知らない。変形性膝関節症になりやすいといわれる、ひどいガニ股なのだが。