現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
tPAによる治療は、発症から3時間以内に開始しないと有効性が少なく、これを超えると、逆に危険が大きくなってしまいます。(高木誠・東京都済生会中央病院院長。「脳卒中の最新治療」=『壮快』2008年2月号「名医に聞く」)
tPA(アルテプラーゼ)は、血管に詰まった血の塊(血栓)を溶かし、血流を再開させる「血栓溶解薬」である。
日本では当初、心筋梗塞に対する使用のみ認可され、脳梗塞にはtPAは使えなかった。脳梗塞を起こしてもろくなった血管は、血流が再開したさい脳出血を引き起こす危険性がある─という理由だった。
しかし2005年10月、海外での臨床報告にもとづき、日本でも脳梗塞への使用が認可され、保険適用となった。対象は「発症後3時間以内の患者」という条件付きで─。
そして、さらに4時間半以内の使用でも有効性と安全性が認められた海外での臨床成績を受けて、2012年8月末からは「発症後4時間半以内」に使用時間が延長された。
だから断るまでもなく、2008年時点での高木先生の言葉は「ウソ」ではない。
「発症後3時間以内のtPA治療でも、36時間以内に脳出血を起こす人が6%あることがわかっています。tPAが〈両刃の剣〉といわれるのはそこなんです」
上掲の記事で先生はそう話している。
脳卒中(脳出血、脳梗塞)の「卒中」は、「卒然として
昔は、脳卒中で倒れた人は絶対に動かしてはいけなかった。それが医学的常識だった。いま、脳卒中の治療が成功するかどうかは、いかに早く専門病院へ搬送し、適切な治療を行うかにかかっている。
むろん脳梗塞のtPA治療も早ければ早いほどよい。脳梗塞が起きたときに脳細胞が減っていく速度は、老化の約3万倍、発症から1時間で3.6年分を一気に失ってしまうという。「
2000年4月、小渕恵三首相(当時)がぶら下がり(記者の囲み取材)を受けている最中、言葉につまり、異様な間の空く光景がテレビに映し出された。その夜、脳梗塞で倒れて約1ヵ月後に亡くなった。
「あれはおそらくTIA(一過性脳虚血発作)。すぐさま適切な治療を受けていたら助かったかもしれない」と専門医は言う。
TIAとは、脳の血液循環が悪くなり、軽い脳梗塞のような症状が起こるが、たいてい10数分以内(長くても24時間以内)に自然に回復する。
最も多い症状は、顔面を含む体の片側の運動障害で、脱力(力が抜ける)と半身のしびれ感だ。箸をぽとっと落としたり、舌がもつれて言葉が一時的に出なくなったり、片方の視界だけが急に暗くなったりする。
脳動脈に小さな血栓がつまるが、すぐ溶けて血流が再開するので、スーッとよくなる。一過性の症状だが、安心してはいけない。
TIAは、脳梗塞の前兆、脳の血管に何らかの病変がありますよ、という警告なのである。
可及的速やかに専門医(神経内科、循環器内科)を受診し、CT、MRIで病変を突き止め、血液をサラサラにする抗血栓治療を受けなければいけない。
なお、本紙の読者諸賢には無用のつけたしだろうが、血液サラサラのサプリメントといえば、断然「梅肉黒酢」、これで決まりです。