現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
気管支の役目は、空気を肺の機能部分、すなわち肺胞という顕微鏡でしか見えない七億五千万個もある空気袋に送ることである。(リーダーズダイジェスト選書『人体の驚異』=「肺の素晴らしい働き」)
人間は酸素なしでは生きられない。生きているということは、酸素を吸っているということにほかならない。
外界(空気)から酸素を体内に取り入れ、体内でつくられた炭酸ガス(二酸化炭素)を体の外へ放出する─この一連の過程が、呼吸である。
鼻や口から吸い込まれた空気は、のど(咽頭)から気管→気管支を通って、左右の肺の中に入り、さらに何度も枝分かれして細くなった細気管支の先端にある肺胞に送り込まれる。そして、その空気中の酸素と、血液中の炭酸ガスを交換する働き(ガス交換)が、肺胞の壁を透して行われる。
気管支が枝分かれを繰り返し、しだいに細くなっていき、その先端におびただしい肺胞をつけている肺の形状は、ブドウの房にたとえられる。房の枝の太い部分が気管支、細い部分が細気管支、実が肺胞である。
肺胞の1個、1個は、直径0・1~0・2世反瑤了劼領海茲蠅眈さいが、両方の肺を合わせると約3億個にもなる。─というところで、今回のウソにたどりついたわけだが、肺胞の数が「七億五千万個」というのは、いくらなんでも多すぎる。
この、人体のあらゆる器官のさまざまな働きを、わかりやすく面白く教えてくれるポピュラーな解説本の発行は、1963年だ。いまのような精度の高い計数盤ができてなかったための錯誤だろう。
さて、ところで、肺に慢性の炎症が生じ、気管支が狭まり、肺胞が壊されていく病気が、いま世界中でふえている。「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」という病気だ。
2008年の厚生労働省調査によると、治療中の患者数は17万3000人だが、01年に行われた大規模疫学調査(40歳以上の男女対象)による推定患者数は530万人以上だ。9割以上の罹患者が、治療はおろか診断も受けていないことになる。
世界中では年間約300万人がCOPDによって死亡し、2020年には世界の死亡原因の3位になると、WHO(世界保健機関)は推定している。
症状は、息切れ、せき、たんなどから始まり、病気が進むと呼吸不全や右心不全(心臓の右心室の働きが低下して肺へ十分な血液を送り出せなくなった状態)が起こる。
最大の原因は、喫煙だ。ニコチン、タール、一酸化炭素などを含むタバコの煙や微小粒子を吸い続けていると、気管支や肺胞に慢性的な炎症が起こり、気管支の粘膜が傷害され、肺胞の破壊が進行する。
しかし、喫煙率は年々下がっているのに、なぜCOPDが増えているのか? タイムラグ(時間のずれ)があるのだろうというのが、一つの説明だ。アメリカの喫煙率が下がり始めたのが1976~80年で、96年ごろから肺がんが減り始めた。喫煙人口の推移と肺がんの発症率のタイムラグ約20年というわけだ。COPDの場合、それが仮に10年遅れだとすると、アメリカのCOPDはそろそろ頭打ちになるかも知れない。
ともあれ、COPDは、肺がんと並ぶ二大たばこ病の一つだから、予防も治療も、まず禁煙だ。一度破壊された肺胞はもう元には戻らない。軽症のうちに進行を止めなければいけない。息切れ、せき、たんに気づいたら、すぐ呼吸器内科へ─。