現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
▼2月28日付「朝日 健康・医療フォーラム」特集面の「糖尿病 生活見直そう」で、「『食事』『運動』『薬』治療の柱」の記事中、「境界型」を示す空腹時血糖値が「111〜125」とあるのは「110〜125」の誤りでした。図中の表記とともに訂正します。講師から提供された資料に誤記があり、点検でも気づきませんでした。(朝日新聞2016年3月9日朝刊)
「訂正して、お詫びします」という2段見出しの記事の全文である。なんと丁寧詳細な訂正だろうと感服し、回収袋から当日の新聞を捜しだして当該記事を読んだ。
講師の野田光彦・埼玉医科大内分泌・糖尿病内科教授が、話のなかほどでこう述べている。
「空腹時血糖値は110(1デシリットル当たりのミリグラム)未満だと正常型で、111〜125が境界型、126以上が糖尿病型。」
あ、なるほど、この数値のうっかり誤記にはなかなか気づきにくかっただろうなと同情する。
「未満」とは「未だ満たさない=その数に達しない。その数よりも少ない」という意味だから、「110未満」には「110」は含まれない。
つまり正常型は「109以下」になるわけで、「111〜125が境界型」だと、「110」が行方不明になってしまう。
数量の範囲を示す用語の「未満」は「その数を含まず」、「以下」と「以上」は「その数を含む」ときめられている。
たとえば、血圧の基準値の、収縮期(最高)140mmHg未満、拡張期(最低)90mmHg未満は、上が139以下、下が89以下だったらまあまずOKということになる。
メタボリック症候群の診断基準とされているウエスト周囲径(腹囲)の、男性=85cm以上、女性=90cm以上は、それぞれ84.9cm、89.9cmまでならぎりぎりセーフということになる。
もっとも、このメタボの診断基準には「科学的根拠がない。ウソだ」という批判も多いのだが。
話を戻すと、前出の解説記事はこう続いている。
「血糖値のあらましを示すヘモグロビン(Hb)A1cという指標が6・5%以上でも糖尿病型だ」。
ヘモグロビンは、血液の赤血球内にある複合たんぱく質(6%のヘム=鉄+94%のグロビン=たんぱく質)で、肺で酸素を受けとり全身に運ぶ役目を果たしている。
ヘモグロビン中のたんぱく質が血液中のブドウ糖と結びついた物質が、HbA1cである。
赤血球は約120日で寿命がつきるが、その間、血管の中をぐるぐるまわり、血液中のブドウ糖と結合する。
つまり、HbA1cの値が高ければ高いほど、血液中に多くの糖があることがわかる。
血糖値は、血液検査をしたそのときの血糖状態なので、食前と食後では当然ちがうし、健診日が近くなってから応急に食事制限したりすればもちろん下がる。
だがHbA1cにはその努力?は全然反映されない。過去1〜2ヵ月の血糖状態がバッチリ表れる。姑息なごまかしなどきかないのが、HbA1cなのである。
以前はこのHbA1c値の表記が、日本と世界の多くの国とでは異なっていた。
日本では、測定の精度が高いなどの理由で、国際標準値(NGSP値)よりも0.4%低い数値を標準値(JDS値)としてきた。
しかし、それでは世界との共通性を欠き、日本の研究成果が国際的に認めてもらえない。
問題を解消するため、日本糖尿病学会は、「2012年4月1日よりNGSP値を用い、当面の間はJDS値も併記する」と発表した。
すなわち従来の数値に0.4%を加え、国際標準にそろえることにしたのだ。
健診結果の通知票を保存しておられたら、2012(平成24)年と2013(平成25)年の「ヘモグロビンA1c」の基準値を見比べてください。
2012(平成24)年のそれには、「ヘモグロビンA1c(JDS) 5.1%以下」「ヘモグロビンA1c(NGSP) 5.5%以下」と二つの数値が併記されてあり、2013(平成25)年からは、「ヘモグロビンA1c(NGSP) 5.5%以下」と単独表記に変わっているはずです。
さて、重要なつけたし─。
糖尿病の予防・治療の柱は、食事と運動。治療ではそれに薬物療法が加わるが、食事と運動がおろそかだと、薬も効きにくい。
血糖値だけでなく、血圧や脂質や体重のコントロール、禁煙も重要。
「糖尿病の治療は、『五種競技』だと申し上げている」とは、上掲記事中の野田教授のことばです。