現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
「一九三一年、十月十八日、一世の発明王エジソンはその八十五歳の生涯をとじた。その二年前より糖尿病が再発し、腎臓病から尿毒症にすすみ、胃カイヨウも併発し、全身の衰弱は極度に達していた。」(飯島登『胃袋』=講談社ブルーバックス)
著者は、独創的ながん研究で知られた医学者(聖マリアンナ医大名誉教授)で、本書は「現代人の不安のシンボル」の胃袋を多角的に解説した好著。多岐にわたる深い医学的知見を、興味深いエピソードを交えながら分かりやすく述べている。なんとも面白く、非常に有益、こんなに中身が濃くてすらすらと読みやすい本は、そう滅多にあるものではない。そのことは奥付を見てもわかる。初版の発行は1963年で、私の手元にあるのは77年の第23刷。以後もさらに版を重ねただろうから、よい本が長く売れ続ける好例である。
その良書のただひとつの瑕瑾【かきん】が、引用文中の「糖尿病が再発」である。
糖尿病は、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足して、糖質の処理がスムーズにできなくなり、血液中の糖質が異常に多くなる(血糖値が上がる)病気だ。発症とほぼ同時にインスリンの注射が必要となる「1型」と、そうではない「2型」があるが、どちらもいったん発症したら治るということはない。
しかし、適切な食事療法と運動療法によって血糖値を正常にコントロールしてさえいれば健康と同じ状態を保つことはできる。だがそれは「治癒」ではない。気をゆるめて養生の手を抜けば病気は容赦なく進行する。「再発」というのは、一度は治った病気が再び発症したことを意味する。エジソンの糖尿病も、「再発」ではなく「悪化」したのである。
糖尿病が悪化すると、目をやられ(糖尿病網膜症=中途失明の第二位)、腎臓をやられる(糖尿病性腎症=人工透析の三分の一)。
近年の研究で、糖尿病の前段階として食後のみ血糖値が上がる時期がかなり長く続くことがわかった。この時期に食後高血糖を解消すれば、糖尿病にはならない。
食後の血糖上昇はαグルコシダーゼという酵素の働きによる。薬用植物「サラシア」製剤は、αグルコシダーゼの働きを阻害し、食後高血糖を効果的に抑える。もしエジソンがのんでいたら、もっと元気に長生きできたかもしれない。