現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
松田選手の急死で、元競泳選手でタレントの木原光知子さんが亡くなったときのショックがよみがえった。─略─健康そのものに見えた木原さんが、くも膜下出血で亡くなったのだ。このとき思った。スポーツこそが健康のもと、健康を保つ万能薬、とは考えてはいけない。(冨重圭以子「寝ても覚めても」=毎日新聞2011年8月11日夕刊)
「日本フットボールリーグ(JFL)松本山雅の松田直樹選手が、練習中に倒れ、心筋梗塞で亡くなったニュースには、がくぜんとした。」と始まるコラムのなかの一節である。
冨重さんは、毎日新聞の専門編集委員。いつも切れ味のいい文章でスポーツを面白く見る目を教えてくれる。大ファンの冨重さんのご意見ではあるが、くも膜下出血はそのような病気ではない。
同じ脳卒中の仲間の脳出血や脳梗塞は、高血圧、動脈硬化、脂質異常症、糖尿病などがかかわる生活習慣病だが、くも膜下出血はそうではない。
太っていても、やせていても、運動をしようが、しまいが、なる人は、なる。
脳出血や脳梗塞を起こす人のほとんどは高齢者だが、くも膜下出血は壮年層に多く発症する。
木原光知子さんは59歳、木村拓也・巨人軍コーチは37歳、音楽グループ「globe」のボーカルKEIKOさんは39歳─。
木原さんはプールサイドで、木村コーチは野球場で倒れて、病院へ搬送されたが、救命は叶わなかった。KEIKOさんは、5時間にわたる手術で一命をとりとめ、いまリハビリを続けている。
くも膜下出血の80%以上は、脳の動脈がコブのようにふくらむ「脳動脈瘤」の破裂による。
ついで、脳のある部分の動脈と静脈が異常な血管によってつながっている「脳動静脈奇形」の破裂が約15%、「もやもや病」などその他が5%弱──。
血管の破裂による出血が、脳を覆う3層の膜(硬膜、くも膜、軟膜)の、くも膜と軟膜の間のくも膜下腔に生じるので、くも膜下出血と呼ばれる。
脳動脈瘤がなぜできるかは、まだよくわかっていない。生まれつき脳動脈の壁に弱い部分があり、年月がたつうちに血圧に押されてふくらんでくるのでは…と考えられている。
MRA(磁気共鳴血管撮影)やCTA(CT血管撮影)で脳の画像検査をすると、1.5〜5%の割合で脳動脈瘤が見つかり、そのうち0.5〜3%が破れて、くも膜下出血の症状を引き起こすといわれている。
脳動脈瘤を治す薬はない。一般的な治療法は、開頭してコブの根元を専用のクリップで挟む「クリッピング術」と、足の付け根の動脈からカテーテル(細い管)を入れて動脈瘤まで進め、コブの内腔にプラチナ製コイルを詰める「コイル塞栓術」だ。
先ごろ、吉本新喜劇の池乃めだかが脳動脈瘤の治療を受けたという新聞の記事(スポーツニッポン4月11日)に、開頭手術を行って動脈瘤を切除したとあったが、「切除」はウソだ。クリッピング術のことだろう。
近年、脳ドックなどで脳動脈瘤が見つかり、めだかさんのように「予防治療」を受ける例がふえている。しかし、脳動脈瘤の破裂率はきわめて低い。なにも治療せず、経過を観察するという選択肢もある。
治療を受ける場合も、緊急を要する状態ではないのだから、十分納得がいくまで専門医と相談しよう。
病院選びの目安は、日本脳神経血管内治療学会が認定した指導医がいるか、どうかだ。同学会のHPを見ると、わかる。