現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
「彼女はここ数年眼が痛むのだ。何人かの医者に診てもらったが、理由がわからない。今まで遠視で、良すぎるほどよく見えたので、かえってそのため神経を緊張させ、疲労させたのではないか、というのが、今までに一番納得出来た説明だが、これとても、医者がつじつまを合わせるために考え出した説だと考えられないこともない。」(三浦清宏「天の響」=『群像』1989年12月号)
「今まで遠視で、良すぎるほどよく見えた」─なんてことは絶対にありえない。医者がそんな大ウソを言うはずはないから(文脈からは医者が言ったようにも読めるが)、これは作家の無知による誤解だろう。
目をカメラにたとえると、レンズに当たるのが角膜(黒目)と水晶体で、フィルムが網膜だ。目に入った光は、角膜と水晶体で屈折されて、網膜の上で像を結ぶ。ピントがぴったり合った写真のようなもので、この状態を「正視」という。
ところが、屈折に異常があると網膜上にハッキリした像を結ぶことができない。ピンボケ写真になる。この「屈折異常」のために起こるのが近視、遠視、乱視だ。
近視は、屈折力が強いか、眼軸(角膜から網膜までの距離)が長いため、網膜より前に像が結ばれる。近いところはよく見えるのだが、遠いところはぼんやりとして見えにくい。凹レンズで矯正する。
遠視は、その反対で屈折力が小さいか、眼軸が短いために網膜より後ろに像を結ぶ。近いところはもちろん、遠いところもあまりよく見えない。凸レンズで矯正する。
乱視は、角膜や水晶体の球面にひずみがあるため物がゆがんで見える。正乱視と不正乱視があり、前者は円柱レンズで、後者はコンタクトレンズで矯正する。
これらの屈折異常でよくよく注意が必要なのは、幼児の遠視と乱視だ。なぜか?
人間の視力は、生後1ヵ月の光覚・眼前手動(明暗と目の前で手を振るのがわかる)から始まり、5、6歳でようやく完成する。このスローペースの発達途上で遠視や乱視があると、「見る学習」が妨げられて弱視になってしまう(近視は先天性の強度近視でない限り、視力発達には悪影響はない)。
幼児が物を見るとき、近くで見る、目をほそめる、頭をかしげる…といった状態がみられるときは、ぜひ眼科で診てもらおう。