現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
咽頭ではさまざまな神経の病気、筋肉の病気で、反射性の嚥下運動が障害されます。
延髄に出血や軟化巣、ウイルス感染症(たとえばポリオ)などがおこると、球まひといわれる現象がおこり、ものを飲み込んでも、食道に入らないで気管に入っていく、誤飲という症状があらわれます。(『最新 医学全書(1)』=編集小学館・中山書店)
「ものを飲み込んでも、食道に入らないで気管に入っていく」症状は、「誤飲」とはいわない。「
たとえば、幼児が、硬貨やたばこなど食べてはいけない物を口に入れて、飲み込んでしまうのが「誤飲」、食べ物や飲み物などが気管や肺へ入ってしまうのが「誤嚥」である。
つまり異物が消化器に入るのが誤飲で、呼吸器に入るのが誤嚥―と、医学用語はきちんと区別している。
誤植か? と思ったが、そうではないようだ。明朝の行文の中で「誤飲」の一語のみをゴシックにしているし、この何ページが前には、「おう吐の合併症として、ほかに誤飲性肺炎があります」という記述があり、全巻の「索引」にも「誤飲」だけがあって「誤嚥」はない。
どうやらこの「医学全書」では、誤飲と誤嚥の用語の統一が行われているようなのだ。これはおかしい。幼稚な混同といわねばならない。
医学界の泰斗の先生方が監修者として名をつらねている全書にケチをつけるのは恐れ多いが…。
以下、誤飲と誤嚥について─。
赤ちゃんは、ピカピカして丸いものが大好き。ボタン型電池、硬貨、タバコなど、大人が思いもよらない物を乳幼児は口に入れる。
もしものときの対応は?
●電池=すぐ水を飲ませ、病院へ。
●硬貨や小さな部品類=たいてい便と一緒に出てくる。
●たばこ=舌の付け根を押して吐かせる。ニコチンの吸収を早めるので、水や牛乳を飲ませてはいけない。ニコチンは24時間で体の外へ出る。1日たっても異常がなければ心配ない。
●大部分の薬=水や牛乳を飲ませて吐かせる。(のどの奥の舌の部分を押して刺激する)
●トイレ用洗剤、漂白剤など=牛乳か卵白を飲ませ、吐かせない。(吐くと食道の粘膜を再び傷つける)
●ガソリン、灯油、ベンジン、マニキュア除光液などの揮発性物質=何も飲ませず、吐かせない。(吐いたものが気管に入り肺炎になる)
●ナフタリン、防虫剤=牛乳は飲ませない。吐かせる。
意識障害がある。けいれんしている。唾液や吐いた物に血がまじる。とがった物を飲んだときも、吐かせない。
病院に行くときは、飲んだ物の容器や説明書などを忘れずに持参する。
誤嚥の起こり方は三つに分類される。
1 食事のさいにむせて、飲食物が気管のほうへ入ってしまう。そのために肺炎が起こるのが誤嚥性肺炎(嚥下性肺炎)だ。
2 胃液が逆流し、気管から肺に入る。胃酸は強い塩酸だから肺に炎症をつくる。
3 眠っている間など無意識のうちに口の中やのどの辺りの病原菌を肺に吸引してしまう。サイレント・アスピレーション(吸引)と呼ばれ、誤嚥性肺炎では最も重要視されている。
お年寄りや脳卒中の後遺症のある人は、とくに誤嚥をしやすい。
誤嚥を防ぐには、食物は少しずつゆっくり食べる。病気の人も上体を起こして食べ、食後は歯を磨き、うがいをし、できれば2時間ほどは座っている。
寝たきりのお年寄りにそのような介助をしたところ、肺炎の発症率がぐんと減ったという報告がある。
誤嚥性肺炎は、元気な人もかかる肺炎だから、毎食後、就寝前の歯磨きで口の中をきれいにし、胃からの逆流を防ぐにはやや高めの枕がよいようだ。
●重要な追加!
乳幼児には、ピーナツなど豆類は与えないでください。丸のみして窒息したり、かけらが気管支に入って誤嚥性肺炎を起こす恐れがあります。