現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
冷やが良くないというのが間違いであることは、洋酒がすべて冷やであり、ビールも冷やして飲むことでもわかるでしょう。数秒で食道を走り下って胃に入りますと、数分間で体温の三十七度に調整されてしまいますから、何度であろうとちっとも差はないわけです。(石垣純二著『常識のウソ』=文藝春秋)
石垣純二氏といえば、医師免許をもつ厚生官僚から日本最初の「医学評論家」となり、面白くてわかりやすい医学・医療の解説者として知られた人である。
上の引用文は、「肉食短命、菜食長命はウソ」「コメよりパンが良いはウソ」「お茶は色を黒くするはウソ」など、さまざまな「常識のウソ」を論じた本の、「冷酒は胃によし」と題された一文の中の一節である。
「各地を講演旅行していて男性からよく聞かれる質問が、『冷やはからだによくないそうですね』というものです」と、始まり、
「実はこれは二百五十年昔、貝原益軒先生がその『養生訓』で日本中にひろげたトンデモナイ迷信の一つです。その巻三に『酒は夏月も温なるべし、冷酒は脾胃をやぶる』とあります。それがずっと口から耳へ、耳から口へと口伝され、今日なんとなく信じこまされているわけです」と、続き、上記の結論に至る。
これに真っ向から反論するのが、川嶋朗・東京女子医大付属青山自然医療研究所クリニック所長。
「冷えは万病の元」についての詳しい話のなかで、先生が、
「とにかく、まずは冷たいものをやめる、極力、避けるところから始めるべきです。こういうと、口の中に入れてあっためてから体の中に入れれば同じではないかという人がいますが、それは違います。体はつながっていますから、口の中にポンと入れた瞬間、胃腸はたちまち収縮して血液を減らすのです」と話した。
そこで、聞き手(丸山)が、
「かつて医師で医学評論家の石垣純二さんが、冷や酒が体によくないというのはウソだ。冷酒だろうが、冷たいビールだろうが、数秒で食道を通過して胃に入ると、数分間で体温の37度になるのだから……と言っていて、説得力あるなと思ったのですが」と聞いたのに対して、先生は、こう答えている。
「それこそ、臓器別医療、体の全体を
ですから、冷え症を治すには、まず冷たいものをとらない。次は火を通す。それでもダメなら最後は食材を考える。食物には、温める食材、冷える食材があります。例えば、夏野菜は体を冷やしますから、できるだけ火を通したほうがいいし、最終的にはとらないほうがいいということになります」(雑誌『壮快』2006年1月号「名医に聞く」より)
むろん、これは冷え症を治すための心得であって、そうではない頑健な体の持ち主が冷酒を愛飲するのは、まあ、よいのではないだろうか。飲み過ぎさえしなければ─。
もっとも、なぜ「冷酒が胃によい」のかの理由としては、石垣さんも、
「いんちきなおかみが二級酒を特級といつわって出すとき、熱カンにするのでもわかるとおり、冷酒の方がよく味覚を刺激し、のどごしのデリケートな味をよく伝えることは事実です」と述べるにとどまっている。