現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
バイアグラのおかげで、一つ勉強した。男性の勃起機能障害を、インポテンツと称するのは間違い、インポテンス。大体、上の三文字で表すからさしたることもない感じだが、さらに現在は、ERECTILE・DYSFUNCTION、略して「E・D」がふさわしいらしい。(野坂昭如「もういくつねると」=『週刊文春』1998年9月10日号)
「インポテンツと称するのは間違い」というのは間違い、だ。インポテンツ(Impotenz)はドイツ語で、インポテンス(impotence)は英語。上の引用文のような肉太の字体をゴチック(独語)といい、ゴシック(英語)ともいうのと同じだ。
日本の現代医学は、ドイツ医学の影響下で進歩したから、カルテ(独語)もドイツ語で記すのが普通だった。アレルギー、ヒステリー、ノイローゼなどのドイツ語病名は、そのまま一般にも通用するようになった。だから戦後のある時期までのドクトルはみんな「インポテンツと称」していた。
戦後、アメリカ医学が世界をリードするようになって、日本の医学用語にも英語が入ってきた。がんが「クレブス」ではなく、「キャンサー」と呼ばれることが多くなったように、インポテンツをインポテンスと呼ぶドクターもふえた。それだけのことだ。ちなみに昔の医者はこれを「陰萎」と称した。
しかし、このごろはもっぱら「ED」で通っていて、これは野坂さんが言うようにエレクタイル・ディスファンクションの略だ。
いま、EDに悩む男性はとても多い。全く性交ができない完全型EDが260万人、ときどき性交できない中等度EDが870万人で、年代別有病率は40代では20%、50代では40%、60代では60%と推定されている。けっして珍しい症状ではない。ありふれた疾患である。
ED治療薬は、バイアグラ、レビトラ、シアリスと三銘柄あり、どれも有効率8割以上といわれる。これをインターネットで購入する人が、医師に処方してもらう人よりもずっと多いらしい。しかし、インターネットで販売されているED治療薬にはニセモノが少なくない。医師の指導が得られないリスクも高い。ぜひ医療機関を受診し、正規の医薬品で正しい治療を受けてほしい。それがEDを早く完全に治す最短の道である。