現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
牛肉にくらべ、ビタミンAが12倍、カルシウムが4倍、脂肪が3倍近くもあり、たんぱく質にも富み、血合肉にはB12が多量に含まれ、日本の女性に多い貧血症にはもってこいの魚で、……(平野正章「食物ことわざ事典」文藝春秋刊)
サンマの栄養価を推奨する文の一節である。サンマの血合肉に多く含まれるビタミンB12が、ある種の貧血症と密接にかかわっているのはホントだ。だが、それが「日本の女性に多い貧血症」というのは、ウソだ。
貧血は、血液の中の赤血球やヘモグロビン(血色素)の量が減少した状態で、いくつも種類があるが、圧倒的に多いのが、ヘモグロビンの材料である鉄が不足するために起こる鉄欠乏性貧血だ。貧血症患者の90%以上を占め、推計患者数約1000万人といわれる。
残りの10%足らずの貧血症として、国の難病に指定されている溶血性貧血と再生不良性貧血のほか、巨赤芽球性貧血や二次性貧血などがある。
赤血球は、骨の中の骨髄でつくられ、120日たつと肝臓と脾臓で壊されるが、その破壊速度が亢進し、赤血球がどんどん壊れて溶けていき(溶血)、補充が間に合わなくなるのが、溶血性貧血だ。
再生不良性貧血は、血液をつくる骨髄のはたらきが衰え、赤血球だけでなく白血球も血小板もつくられなくなる。
巨赤芽球性貧血は、赤血球がつくられるときに必要なビタミンB12や葉酸が欠乏し、巨赤芽球という巨大な赤血球ができるために起こる。昔は悪性貧血と呼ばれたが、レバーを食べるとよく治ることがわかり、その病名は使われなくなった。
二次性貧血は、病気の症状として起こる貧血で、症候性貧血ともいう。原因となる病気には慢性の腎臓病、肝臓病、甲状腺機能低下症などのホルモンの病気、結核、関節リウマチ、子宮筋腫、がんなどさまざまなものがある。貧血にはそうした重大な病気がまま隠れていて、60歳以上の鉄欠乏性貧血の6割はがんだったという調査報告もある。
しかし、貧血の大半は鉄欠乏性貧血で、そのまた大半の患者は閉経前の女性である。
顔色が悪く、青白い、何となく体がだるい、頭が重い、集中できない、めまいがする、息切れや動悸がする、食欲がなくなる、便秘や下痢がよく起こる、つめがもろく、伸ばせない……思い当たる症状があったら、もしかしたら貧血のせいかもしれない。鉄を多く含む食品は、肉、魚、貝、レバー、ひじき、ホウレンソウ、大豆などだが、鉄は吸収されにくいのが難点だ。医師に鉄剤を処方してもらうとよい。
ただし、さっき言ったように貧血イコール鉄不足とは限らない。きちんと検査してもらおう。