現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
「長電話すると、肝臓障害を起こします。それを防ぐには甘い紅茶を飲むといいんです」(1991年10月17日 NTV「午後は〇〇おもいッきりテレビ」)
あえてお名前は記さないが、発言者は産婦人科の医師だった。思わずゲラゲラ笑った。電話からなにか肝臓の毒になるようなものが放出されるのだろうか? それとも受話器を耳に当てた姿勢を長時間続けるのが、肝臓によくないのだろうか? それを防ぐのに甘い紅茶が効くというのはどういうことだろう? いくらどう考えてもサッパリわからない。
面白いデタラメを大まじめにしゃべる話術に感心し、このセンセイ、漫談家に転向すれば、テレビ界は第二のケーシー高峰を得ることができるし、一方、日本医師会や患者は大いに助かるだろうなあと思った。
こんな珍説に比べると、「左手で歯みがきをすればボケない」「ガムをかめば頭がよくなる」などのほうがずっとましだ。少なくとも科学的な説明ができる。
手は第二の脳とか外部の脳といわれるように、脳と密接につながっている。例えば人差し指を曲げ伸ばしすると、大脳の「手の運動野」の血流量が30%、「手の感覚野」のそれは17%、増加し、神経細胞の動きが活発になる。たった1本の指の運動でもそれだけの変化が脳に起こるといわれる。
脳と体の関係は非対称で、左脳が右半身を、右脳が左半身を支配している。逆にいえば、右半身の運動は左脳を、左半身の運動は右脳を刺激する。つまり左手を使えば右脳が活性化されるわけだ。
脳の働きは分業になっていて、左脳は言葉を理解したり計算したりという論理的な作業を行うので「言語脳」といわれ、右脳は音楽を聴いたり愛を感じたりという感覚・感情をつかさどるので「感覚脳」といわれる。左右の脳をバランスよく使い鍛えるのがボケない秘訣だが、日常の仕事や学習では左脳と右手(利き手)を使う機会が、右脳や左手よりもずっと多い。
右脳を使って活性化するには、利き手でない左手を使い、右脳を刺激する機会を増やしてやるとよい。手始めに左手で歯みがきをしよう─というわけである。
ガムの効用は、もっとハッキリ証明されている。小野塚實・神奈川歯科大学「咀嚼と脳の研究所」所長らは、fMRI(機能的磁気共鳴画像)によって、記憶の中枢─海馬で活動する神経細胞の数がふえると報告している。
興味のある人は、発売中の雑誌「壮快」8月号の「名医に聞く 噛む力で脳を守る」をどうぞ─。