現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
ガンの既往歴のある人を、タイプCと、そうでないタイプとに分けて比べると、タイプCの人は、非タイプCの人よりも、ガンにかかった割合が約1.7倍高いという結果が出た。(「いい人ほどガンになりやすい! 5万人の大調査で衝撃判明」=『壮快』1994年4月号)
東北大学医療技術短期大学の細川徹・助教授(当時)らが、宮城県内14町村の40〜64歳の住民全員(5万2123人)対象の調査(有効回答数4万7605人)の結果、ある特定の性格の人は、ほかの性格の人に比べて、がんの既往の割合が高いことが判明した。
ある特定の性格とは、「タイプC」と呼ばれる性格のことで、その大きな特徴は、「感情の抑制」である。
自分の正直な感情を抑えて、気もちをストレートに出さない。特に怒りは表に出さない。人との争いごとを好まず、自分の言い分、主張はひかえ、ほかのみんなに合わせようとする。協調性、同調性にすぐれている。
このような性格の人は、「いい人」「いい性格」に見える。
なぜ、このタイプCの人にがんの既往歴が多かったのか。言い換えると、なぜ、いい人ほどがんになりやすいのか。
自分を強く抑制することによるストレスを処理しきれず、ストレスがたまっていくと、しだいに疲労し、抑うつ的(常に抑えつけられているような重苦しい気分)になってしまう。
そうした抑うつ状態がつづくと、心が体に影響し、体のもつ生体防御反応を弱め、免疫力を低下させる。それががんの引き金になるのでは―と考えられる。
同じころ同じような調査結果を、アメリカの心理学者リディア・テモショックらも発表している。
彼らはメラノーマ(悪性黒色腫)患者150人以上と面接し、その約4分の3にタイプCの性格的特徴が認められたという。(『がん性格・タイプC症候群』=邦訳書・創元社1997年刊)。
これに対して、2010年8月、がんと性格の関係を否定する論文が米国疫学雑誌に掲載された。
坪野吉孝・東北大教授による朝日新聞の記事を要約する。
調査は、フィンランドとスウェーデン両国の男女5万9548人を対象に行われた。
調査した「性格」は、社交性や活気などでみる「外向性」と、感情の不安定さや不安などの「神経症的傾向」。フィンランドでは0点〜10点、スウェーデンでは0点〜9点で評価した。
両国で最長30年追跡したところ、何らかのがんになった人が4631人いた。
外向性が1点増えた場合のがんの発生リスクは0.99倍。神経症的傾向では1倍。上昇も低下もしなかった。
フィンランドでの全がん患者2733人について、性格と死亡との関係を最長29年追跡した結果、外向性が1点増えると死亡リスクは1倍、神経症的傾向でも1倍。上昇も低下もしなかった。
健康な集団のがんの発症と性格の関係を調べた追跡調査や、がん患者の死亡と性格についての追跡調査は、それぞれ数件あるが、いずれも今回の研究が最大規模である。
がんを全体として見る限り、外向性や神経症的傾向という性格は影響を与えない。
がん患者は、がんの発症や経過に、自分の性格が影響すると考えるべきではない。
研究論文はそう結論づけている。
話を戻すと、タイプCの人にがんの既往歴が多かったという調査結果だけでは、タイプCががんの原因だったとはいえない。
がんになったことが原因で、性格的にタイプCになってしまった─と考えることもできる。
どちらが原因なのか、結果なのか、わからない。
ともあれ、もし自分がタイプCか、それに近いようだと思われるばあいはどうしたらいいか。
先に記したように、ストレスをため込みやすいのが、タイプCの人の特徴。
心を開いて人とよく話をするとか、趣味や遊びなどでストレスを発散し、心身のリラックスを心がける。
責任を全部、自分で背負い込まないようにする─といったようなことではないだろうか。