現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
これまでショウジョウバエやマウスの研究はありましたが、霊長類では初めて確認されたことになります。(日野原重明「科学が実証した腹7分目」=朝日新聞09年8月1日)
米ウィスコンシン大チームが、09年7月中旬発行の科学誌「サイエンス」に発表した、「低カロリー食が加齢性の病気を減らし、老化を遅らせることを、アカゲザルの実験で確かめた」という論文についての解説だ。
しかし、これは尊敬する日野原先生のお言葉ではあるが、「霊長類では初めて─」ではない。やはりアカゲザルを使った同様の研究を米国立加齢研究所のグループが行い、02年8月上旬、同じ「サイエンス」に発表している。
ウィスコンシン大チームの実験は、20年前(1989年)、7〜14歳のアカゲザル76匹を2群に分けてスタートした。A群には好きなだけ餌を与え続け、B群はカロリーを約30%減らした餌で飼育した。
結果、A群は38匹中14匹(37%)が糖尿病、がん、心疾患、脳委縮などで死んだ。B群は5匹(13%)だけだった。アカゲザルの寿命は30年前後だから、寿命の結果はまだ確定していないが、B群は寿命も延びたと判断されるという。
インターネット掲載のカラー写真を見て驚いたのは、老け方の差だ。A群はぶよぶよの年寄り顔だが、B群はきりっと締まった壮年顔だ。食べ過ぎは生活習慣病のもとになるだけではなく、若さも奪うようだ。
一方、国立加齢研究所のグループの実験は、アカゲザル60匹を30匹ずつに分けて、一方には腹いっぱい食べさせ、他方は30%減食で飼育した。
15年後、腹7分目群は腹いっぱい群に比べて、死亡率が半分に抑えられ、「体温が低い、血中インスリン濃度が低い、DHEA−Sの減少速度が遅い」という「三つの特徴」が認められた。いずれも代謝(体の組織が酸素や栄養素を受け取り、老廃物を出すはたらき)に関係し、寿命に大きく影響するという。
素人考えでも、体温が高ければエネルギーを多く使うし、糖質(エネルギーのもとになる栄養素)を処理するインスリンが多ければやはりエネルギーの消費が大になるだろう。体のエンジンを全開してぶっ飛ばすようなものだから、寿命が短くなるのは当然か。
もう一つのDHEA−Sというのは、副腎から分泌される男性ホルモン作用をもつステロイドで、たんぱく質の代謝にも影響し、加齢とともに減少することがわかっている。
同研究所は、700人以上の健康な男性を対象とした調査でも、長生きする人にはこの三つの特徴が認められたと発表している。
つまり、少食でエネルギーをあまり消費せず細々と生き、しかし、オス的要素は長く保つほうが延命には有利ということか?
少食が長寿に通じるのは昔から知られていて、それが動物実験でも実証されたわけだが、しかし、極端な少食、偏食は過食よりもっと危険だ。日本の国立健康・栄養研究所が行ったネズミの実験でいちばん長生きしたのは、適度の運動をさせた高脂肪高たんぱく食の群で、最も短命だったのは低栄養+運動不足群だった。
低カロリー食の効果をサルの実験で確かめた米ウィスコンシン大チームも、「老化を遅くするのは、栄養不良にならない程度のカロリー制限だ」と言っている。