現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
「母親のつる代さんの血液型はA型で、娘の奈保子さんがO型。ところが会長はAB型。奈保子さんは、会長の子ではありえない」(「やめ判 新藤謙介 殺しの事件簿」2011年4月4日=TBSテレビ)
これは血液型の一般的な常識だ。「ウソ」ではない。だが、100%ホントとはいえない。AB型とA型の両親からO型の子が生まれることが、ごくまれではあるが、あり得るのである。
血液型は、A、B、Oという3種類の遺伝子の組み合わせで決まる。A型になるのは、両親からもらった遺伝子が「AA」か、「AO」の組み合わせの場合だ。「AA」は、父からも母からも「A」遺伝子をもらい、「AO」は、父母のいずれかから「A」を、もう一方からは「O」をもらったわけだ。Oは劣性遺伝子なので、AAもAOも同じA型になる。
同じように「BB」と「BO」はB型になり、「OO」の組み合わせのみO型になる。
そしてAB型は、両親の一方から「A」を、もう一方から「B」をもらった場合にみられるのが、普通だ。つまりA遺伝子とB遺伝子が、2本の染色体の上に一つずつ、のっかっているわけである。
ところが、1本の染色体の上にAとB、二つの遺伝子が並んで乗り、もう1本の染色体には乗ってない「シスAB」と呼ばれる特殊なタイプのAB型がある。シスとは同じ側という意味だ。
シスAB型は、染色体の交叉、あるいは突然変異によってできるもので、その発生率はAB型のなかの0.012%といわれている。
もしもドラマの会長が、シスABのAB型で、母親のつる代さんがAOのA型だったとして、遺伝子が乗ってないほうの会長の染色体と、つる代さんのO遺伝子の染色体が結合すると、娘の奈保子さんの血液型はO型になる。「会長の子ではあり得ない」とは、言えないわけである。
シスAB型は、血液学では常識だが、専門外の医師にはあまり知られていない。また、専門家でさえ手こずるボンベイ型というものがあり、これは表面的にはO型だが、A遺伝子やB遺伝子を持っていて、それが子どもに現れる。この場合、O型同士の両親からA型やB型の子が生まれることがあり得る。
実際、そうした例が報じられたこともある。
1990年10月16日号の『週刊女性』には、「独占取材 衝撃 学会報告 父=B型、母=AB型からO型の子が生まれた!! Aくん・和歌山県。母が不倫? 取り違え? トンでもない!」という記事が、97年8月11日の朝日新聞には、「父O型+母B型=子はA型 大阪医大 DNA鑑定で確認」という記事が、掲載されている。朝日の記事を一部引用する。
「これまで血液型の常識ではあり得ないと考えられていた、B型とO型の両親からA型の子供が生まれたという実例が、大阪医科大法医学教室の鈴木廣一教授によって確認され、このほどドイツの医学誌に発表された。デオキシリボ核酸(DNA)による鑑定では間違いなく両親の子供と確認されており、原因は血液型を決める遺伝子で組み換わりが起こり、O型とB型の遺伝子から、A型のものによく似た遺伝子ができてしまったことらしい。」
このように血液型には非常に難しい問題が潜在しているのである。軽々しく論じるべきではない。いわんや、人の性格をたったの4種類に分けてしまう血液型性格判断においてをや……である。