現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
塩見 耳には、外耳、中耳、内耳という三つの部屋がありますよね。その中耳には、「蝸牛」という管があります。聴覚をつかさどる感覚器官で、中をリンパ液が流れているんですが、このリンパ液の流れに乱れが生じて、めまいや耳鳴りが発作的に起こる。メニエール病については、そこまではわかっています。(『眠って生きろ』=デコ)
「蝸牛」があるのは「中耳」ではない。内耳だ。それくらい中学生でも知っているのではないか。
この本は、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏と、塩見利明・愛知医科大学教授(日本睡眠学会副理事長)の対談形式の解説書だ。聞き上手の鳥越さん相手に、睡眠学の専門家の塩見教授が、不眠症をはじめさまざまな睡眠障害について、面白くわかりやすく話している。そのなかでの発言なのだが、医大教授ともあろう人が、「蝸牛」が「中耳にある」なんて、そんなバカなことをおっしゃるわけがない。
たぶん対談の録音テープから文章をまとめたライターのミスに、編集者も著者のお二人も気づかなかったのだろう。医学の素人の編集者や鳥越さんがついだまされたのは、まあ仕方ないとしても、医学者たる教授が見落としたのはお粗末というほかない。
この本の開巻第1ページには、「ちゃんと眠ってこそ、ちゃんと生きられる」と記されてあるが、(原稿や
というところで、耳の話─。耳は、耳孔から鼓膜までの外耳、鼓膜の内側の中耳、中耳の奥の内耳という三つの部分からなっている。
中耳には鼓膜の振動(音)を内耳に伝える小さい骨(耳小骨)が三つ連なっている。鼓膜と接するツチ骨、内耳と接するアブミ骨、その二つの骨をつなぐキヌタ骨だ。
内耳は、体のなかで最も硬い骨に囲まれていて、その中に聴覚をつかさどる蝸牛、体の平衡感覚をコントロールする三半規管、前庭器がおさまっている。
蝸牛や三半規管の内外はリンパ液で満たされているが、リンパ液の量が増え、内圧が高くなった状態を内リンパ水腫という。その内リンパ水腫によって、蝸牛や三半規管の機能が障害され、めまい、耳鳴り、難聴などが起こるのがメニエール病だ。
カタツムリのような形をしているので「蝸牛」と呼ばれる管の中には、有毛細胞という毛の生えた細胞がびっしり並んでいる。有毛細胞の壁には収縮たんぱく(プレスチン)というものがあり、音の振動が伝わると、伸び縮みしてその刺激を脳へ伝える。
人間の耳は20〜2万ヘルツという非常に広い範囲の音を聴くことができる。2万ヘルツ担当の有毛細胞は、2万ヘルツの音が入ってくると、1秒間に2万回振動する。そんなに速い速度で動けるたんぱく質は、耳のこの細胞にしかない。
有毛細胞は、生まれたときから減り始めて再生しない。だから年をとるにつれて耳が遠くなるのは、誰も避けられない。有毛細胞が大音響で障害されるのが、騒音性難聴だ。耳をだいじにしよう。