現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
メチオニン〔フ methionine〕 アミノ酸の一種で、肝臓の働きを助ける物質。 (『新明解国語辞典』=三省堂)
この辞典は、語釈の一味違うおもしろさで知られるが、残念ながらこのメチオニンの説明は、過去の医学知識に基づくものなので、「新」ではなく「明解」でもない。
メチオニンは、必須アミノ酸の一つで、脂肪肝を防ぐ「抗脂肪肝因子」の一つでもある。肝臓に入ってきた毒素や老廃物を排除し代謝を促進させ、また血中コレステロール値をコントロールする。1970年ごろまではメチオニンを主成分とする薬が肝臓病の治療に頻用され、二日酔いの妙薬としても盛んに売られていた。
ところが、その後メチオニンが体内(腸)でメタネチオールという神経毒をつくることがわかった。メタネチオールができても、肝機能が正常な人ならすぐ解毒されるが、肝臓病が進み肝機能の低下した人はそうはいかない。血流に乗って脳へメタネチオールが行くと、神経毒だから意識がおかしくなる。機能の低下した肝臓にはメチオニンは毒、ということになった。医学が進み、過去の治療法が否定された一例だ。
現代医学は日進月歩、今日の最新知識も5年たつと半分は古くなるという「医学知識半減期5年説」もあるくらいだ。「大学で学んだ情報で現在も役立っているのはせいぜい20%、あとの80%は卒業後に得たものだ」と話した医師もいる。医師には生涯学習が欠かせない。
半面、世の中にはいつまでも古くならない情報もある。いわゆる「おばあちゃんの知恵」や、評価の定まった民間療法などだ。メチオニンを主成分とする大衆薬は消えたが、「しじみのみそ汁」は健在だ。
しじみなどの貝類にはアミノ酸の仲間のタウリンが豊富に含まれる。タウリンは血圧を下げ、血中コレステロールの生成を抑えるなどさまざまに有用な働きをするが、肝臓では胆汁酸の分泌を促進し、肝細胞の再生を助ける。「土用しじみは腹薬」とか「しじみのみそ汁、酒飲みの友」といわれる。ただ、メチオニンや鉄分もやや多いので重い肝臓病の人は控えたほうがよさそうだ。
ともあれ、昔ながらの経験的知恵は今も暮らしのなかで活かされている。知識は古くなることもあるが、知恵は永遠に古びない。