現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
新型インフルエンザは、ご承知のように毎冬流行し、日本だけでも万単位の人が死ぬ手強い敵である。(東嶋和子「新・養生訓 大流行に備えよ」=『文藝春秋』2008年7月号)
新型インフルエンザが、「毎冬流行」するなんて、いったい、どなたが「ご承知」なのだろうか?
いま、感染爆発直前といわれる、新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)が発生すると、全世界の死者は7100万人と推計されている。それが毎冬流行したら人類滅亡だ。おどかしちゃいけません。
しかし、新型インフルエンザ出現の時が、着々と迫っているのは疑うべくもない。根拠は、数年来、世界中に広がりつつある鳥インフルエンザだ。普通、鳥インフルエンザは人間には感染しないのだが、ウイルスを大量に吸い込むと、感染することがある。アジアを中心に380人が感染し半数が死亡、インドネシアでは人から人への感染も確認された。
鳥同士の感染も、人への感染も、続けば続くほど新型発生のリスクが高まる。鳥インフルエンザのウイルスの型=H5N1型は、人間のA型インフルエンザのH1N1型(ソ連型)やH3N1型(香港型)と同じウイルス仲間だからだ。突然変異を起こすなどして、人に感染しやすい新型が現れると、これに対する免疫はだれも持っていない。人から人へと簡単にうつる。
1918年に始まったスペイン風邪、57年のアジア風邪、68年の香港風邪と、20世紀には3度の新型インフルエンザの大流行があった。毎冬流行しているAソ連型はスペイン風邪の、A香港型は香港風邪のそれぞれ子孫に当たる。
スペイン風邪のときは、世界で約4000万人の命が奪われ、人口5700万人だった日本では、2380万4673人が発病、38万8727人が死亡した。船でゆっくり襲来してもそれだ。航空機時代の今回は、3200万人が感染、64万人が死亡─と想定されている。
政府はH5N1型ウイルスから作ったワクチンを、医師や救急隊員、検疫官、一般診療所職員など優先度の高い人たちから接種するという。
優先順位の低いわれわれは、どんな備えをしたらよいか? 国の指針は、集会や外出を避け、2週間程度の食料や日常品を準備するよう推奨している。日常的にはうがいと手洗いの励行、十分な睡眠と休養─結局、最も大切なのは昔ながらの素朴な心得のようだ。