現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
◇ののちゃん 心臓にはがんはできないんでしょ。お父さんが言ってたよ。
◆先生 あら、よく知っていること。先生も友だちのお医者さんに聞いたことがあるんだけど、心臓にできにくいのは確からしいわ。
(「ののちゃんのDO科学」=朝日新聞2009年9月26日)
いや、心臓にもがんはできる。が、それはきわめてまれである。
慶応義塾大学病院医療・健康情報サイトはこう解説している。
「他の臓器と同様に心臓にも腫瘍が発生します。頻度的には、全剖検例の0.1%以下と稀な疾患で約70%が良性腫瘍、30%が悪性腫瘍といった割合です」。
なぜ、心臓にはがんができにくいのか?
理由の最も大きな一つは、心臓では細胞分裂が起きないことである。
人の体は数十兆もの細胞からなり、それぞれの核には同じ遺伝子(DNA)がある。
細胞は日々生まれ替わり、一つの細胞は分裂時にDNAを2倍にコピーし、二つの細胞に振り分ける。
そのとき、たまに突然変異などのコピーミスが起こる。これががんの種だ。
種が異常に増殖した細胞の塊=がんが、さらに大きくなったり、ほかの臓器に転移したりすると、命をおびやかすようになる。
だが、心臓を形成している筋肉(心筋)は、ほとんど細胞分裂を起こさないから、がんの種ができない。
さらにもう一つ、心臓にがんができにくい理由がある。
心臓は、二六時中休みなく動くため発熱量が大きい。心臓の重量は体重の約0.5%程度しかないが、体全体の体熱の約11%もの熱をつくっている。常に40℃近い高温になっている。
がん細胞は熱に弱く、40℃以上になると死滅する。その性質を利用したのが、がんの温熱療法である。
つまり心臓は生まれながらに体に備わった温熱器官、がんが寄りつけないしくみになっているわけだ。
心臓と同じように温度の高い臓器である脾臓にもがんはできない。
心臓にガンができにくい理由は、ほかにも「血液の流れが速すぎて、ガン細胞が定着しない」とか、「活性酸素の傷害に対して抵抗力を持っている」などさまざまな説がある。
ともあれ、心臓が「がんオフリミット」地帯であるのは、生命維持に不可欠な臓器を守る「からだの知恵」といえる。
なお、心臓の良性腫瘍の多くは「粘液腫」と呼ばれるゼリー状の腫瘍で、生命に危険を及ぼすことはないが、息切れなどの心不全や動悸などの不整脈の原因になったり、腫瘍の一部が壊れて脳へ飛び、脳梗塞を起こしたりする。
手術で取り除けば簡単に治る。
心臓の悪性腫瘍には原発性のものと転移性のものがある。
原発性の悪性腫瘍は、アスベスト被曝による中皮腫、肉腫、悪性リンパ腫など。
転移性の心臓腫瘍の原発巣は、肺がん、乳がん、悪性リンパ腫、白血病、悪性黒色腫、食道がん、腎臓がんなど。全悪性腫瘍の10〜20%が心臓へ転移するといわれている。