現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
患者の68%を占めるのがアルツハイマー型認知症だ。脳に特有のたんぱく質がたまっていき、脳の萎縮を引き起こす。脳梗塞や脳出血など脳血管障害が原因の型が20%、幻視などを伴うレビー小体型が4%と続く。(「患者を生きる 脳と神経」=朝日新聞2014年3月16日)
これを「ウソ」と決めつけるのは少々ナヤましい。ある時点、あるコホート(集団)における調査データとしては、けっしてウソではないからだ。
日本の認知症の調査データにはじつにばらつきが多い。認知症の最大のリスクファクターが加齢であり、超高齢化社会では年々ふえる一方なので、実態がとらえにくいのがその一因である。
上掲の記事は、厚生労働省の2013年6月の発表にもとづくもので、それによれば、「65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推計15%で、2012年時点で462万人にのぼることがわかった」という。
ところが、同じ厚労省が2012年8月には、「認知症になった高齢者数の新たな推計結果は、2012年の時点で305万人(65歳以上人口の9.9%)に達するとみられる」と発表しているのだ。「462万人」と「305万人」では1.5倍もの開きがある。
前者は「茨城県つくば市など8市町で選んだ高齢者5386人分の調査データを使用、高齢者人口(12年)に有病率を当てはめて推計した」数値であり、後者は「2010年時点の介護保険の要介護認定データをもとに算出した」数値である。調査方法が違えば結果も違うというわけ。
アルツハイマー型=68%、脳血管障害型=20%、レビー小体型=4%という有病率に対しても異論があり、レビー小体型のほうが脳血管型をずっと上回る、と明言する専門医が少なくない。
大脳皮質にレビー小体という異常物質(たんぱく質の塊)ができるのが原因の、この認知症は、日本の精神科医、小阪憲司博士(横浜市立大学名誉教授)が1976年に発見、96年に国際的な診断基準ができた。
約200人の認知症患者の脳を調べた小阪博士によれば、「レビー小体型は20%、アルツハイマー型の50%に次いで多い」。国内の患者数は推計約50万人、「第2の認知症」と呼ばれる。
認知症治療の指針「コウノメソッド」で知られる河野和彦・名古屋フォレストクリニック院長も、「認知症のタイプを多い順に挙げると、アルツハイマー型、レビー小体型、脳血管性、前頭側頭型(ピック病)、その他となる」と話した。(雑誌『壮快』2012年3月号「名医に聞く」)
しかし、レビー小体型はなかなかわかりにくく、誤診による「隠れレビー」の患者が非常に多い。なぜ、レビーはわかりにくいのか。アルツイハイマー病やパーキンソン病と混同されやすいからだ。この三つは、いずれも脳内の神経伝達物質が低下する病気で、パーキンソン病ではドーパミンが、アルツハイマー病ではアセチルコリンが、レビーではその両方が不足する。そのため症状がよく似通っていて、まだよく知られてないレビーは、アルツハイマーやパーキンソンと誤診されやすい。
パーキンソン病はドーパミンを、アルツハイマー病はアセチルコリンを、レビーはその両方をふやす必要があるが、薬剤過敏性(薬が効きすぎる性質)のあるレビーには、どちらの薬も規定量より少なく処方しなければならない。
誤診により一方の薬のみを通常量、処方されると、ドーパミンとアセチルコリンは片方がふえると、もう一方はへる