現在のページ:TOPページ > 医療ジャーナリスト丸山寛之氏が綴る辛口コラム「それ、ウソです。」
納豆やクロレラは、ワルファリンの作用を増強するので、ご注意ください。(「口福学入門8」 山根源之=毎日新聞2011年10月10日)
納豆やクロレラは、ワルファリンの作用を「増強」する─というのは、ウソ。ホントは「減弱」させる。
ワルファリン(一般名=ワルファリンカリウム。商品名=ワーファリン)は、血管の中で血液が固まって血栓ができるのを防ぐ「抗凝固薬」だ。
血栓は、フィブリンという血液凝固因子が糊のように働き、血液成分の血小板と血小板をくっつけて、できる。この血液凝固因子のフィブリンが作られるのを手助けするのが、ビタミンKだ。ワーファリンは、ビタミンKの働きをブロックし、フィブリンが作られる量をへらし、血栓をできにくくする。
ところが、納豆菌は腸の中でビタミンKを大量に作り、クロレラにはビタミンKがたくさん含まれている。
だからワーファリンをのんでいるときは、納豆やクロレラは、食べてはいけない。血液中にビタミンKがふえて、ワーファリンの作用を弱めるからだ。これはほとんど常識的に知られていることである。
では、なぜ、すぐれた医学者(山根源之先生は東京歯科大学名誉教授)が、正反対の思いちがいをしたのだろう?
納豆には、ナットウキナーゼと呼ばれる血栓溶解酵素が含まれている。ナットウキナーゼの血栓を溶かす作用は、心臓や脳の血管に血栓が詰まる、急性心筋梗塞や脳血栓症の治療に用いられるウロキナーゼという血栓溶解薬にひけをとらないくらいだといわれる。
で、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる血栓ができないよう血液をサラサラに保つには、納豆を毎日食べるとよいと勧められる。
もしかしたら、山根先生は、このナットウキナーゼの血栓溶解作用と、ワーファリンの抗血栓凝固作用を重ね合わせて、ワーファリンの作用が増強する(薬が効き過ぎて逆効果になる)と勘違いされたのかもしれない。
ともあれ、ワーファリン服用中は、納豆やクロレラなどビタミンK含有食品は禁忌、緑黄色野菜も制限される。
このような薬と食品の相互作用(飲み合わせ)で、よく知られているのは、高血圧の治療に用いるカルシウム拮抗薬とグレープフルーツ(と、そのジュース)だ。グレープフルーツに含まれるフラノクマリンという物質が、薬を分解する酵素の働きを弱めるため、薬の血液中の濃度が上がり過ぎて、低血圧症状(頭痛、めまいなど)を招いてしまう。
グレープフルーツは、免疫抑制剤やアレルギー治療薬、精神安定剤なども、血中濃度を上げて薬が効き過ぎてしまうほか、副作用が出ることがある。そうした要注意の果物や食品は、スイートオレンジやザクロ、牛乳などほかにもある。
また、相性のよくない薬と薬の相互作用で思わぬ副作用が出る例もいくつもある。医師に薬を処方されたときは、そうしたことについての注意もよく聞くようにしたい。
なお、この春発売された抗凝固薬のプラザキサは、納豆も緑黄色野菜も自由に食べられる。ビタミンKの作用とは関係なく、血液を固めるトロンビンという酵素に直接作用する薬だからだ。
いま、ワーファリンに代わる同じような抗凝固薬をめぐって、内外の製薬会社が激しい開発競争を繰り広げている。